奈良のガラガラ静寂な裏道を一人でブラブラしてた時の落ち着く感じを思い出す。
ガヤガヤで賑やかな甲子園の前に一人で立ってた時の孤独さを思い出す。小さなスーツケースを東京駅の近くまで引っかけ、一人で夜行バスを待ってた時の、手が凍えるほどの寒さを思い出す。
翌日の朝夜行バスを降りた時のウキウキした感じ、ルミックスを手のひらの中に一人で大阪の空いた早朝市場をブラブラし始めた時のことを思い出す。
宮崎に向かって広々とした深夜の真っ黒な海上に進んでる船の甲板で一人で立ってた時のことを思い出す。
一人旅が終わって無事につくばに戻る度のほっとした感じを思い出す。つくば駅の大きな交差点の真ん中で一人でスーツケースと一緒に立っており、朝早くまだ眠っているシーンとしたまま、太陽の光の下にピカピカするつくばを眺めてた時の落ち着いて温かい感じを思い出す。つくばはこんなに静かなんだと初めて分かってきた。
つくば駅から宿舎まで一人で暴風と大粒の雨の中に一人で自転車を漕いでた時の心細さを思い出す。つくば人の誰かに迎えにきてくれる人がこんなにほしかったと初めて分かってきた。
人間の存在の匂いが全然してない、冷えた部屋に「ただいま」と言ってた時の寂しさ、母に「お帰りなさい」と言って欲しくてたまらなかった感じを思い出す。でも、終に布団の中でぐっすり眠って翌日目が覚め、「ここはどこだ」という質問でつくばでの新しい日々を始める。
そう、日本での一人旅を思い出してる。
孤独、寂しい、一人ぼっち… 大きな河の流れに流される砂の粉のように、真っ黒な海の中に微かに光る舷灯のように
そして、胸を張りながら何だか理由なしでドキドキする一人旅の楽しみ… のび太君の家に囲まれる延々と延びている壁をのんびり旅するノラ猫のように
「ワタクシはノラ猫でございました」
そう、過去形である。
もう旅できなくなった。「時間が作り物なんだ」とカッコウつけ他人に言ってるが、もうノラ猫に戻れないと覚悟。
「作れるもんかよ!ああああああああああああっ」
正しく言うともう人間に戻っちゃった。人間としてちんたらちんたらと言われたくないが、ノラ猫であったことを思い出さずにはいかない日々、懐旧の思いに耽る日々がいつまで続いていくのかしら。
さあ~、ノラ猫としても知らない、人間としても知らない …